ヘミングウェイ効果:続けるためのモチベーションの上げ方

 Scientific Americanの記事「失敗を成功に変える方法”How to Turn Failure into Success”」から。

 

 心理学の用語で「ツァイガルニック効果」というものがあります。人は、完成した課題よりも未完成の課題の方が記憶に残りやすいというものです。
 逃した魚は大きいということわざもあります。あとちょっとで手に入ったとか、完成できると思っていることを途中で止められると、残念な気持ちで悔しくなるので完成させたいと思ったり、実際よりも大きく価値があったように記憶するのでしょう。

 ヘミングウェイは、この途中で止められると完成させたくなるという心理を執筆のモチベーションを保つのに使っていたようです。
 文章を節ごとに書き上げるのではなく、わざと途中の区切りの悪いところで一日の執筆を止めることで、翌日もすぐに取り掛かれるようにしていました。

The Hemingway effect: How failing to finish a task can have a positive effect on motivation
「ヘミングウェイ効果:仕事を終えられないことがモチベーションにプラスの効果をもたらす可能性がある」
In sum, the findings of this study indicate that under certain conditions, failure to finish a task can have beneficial effects on motivation to persist and continue the task. Implications for practice – particularly in educational contexts – are discussed.
要するに、この研究の発見は、ある条件下では、仕事を終えられないことが、仕事を持続させ続けるための動機づけに有益な効果をもたらし得ることを示している。特に教育の文脈で実践への影響が議論されています。
上記は「Thinking Skills and Creativity」より引用

 完了させることでえられる達成感を中途半端に阻まれるので 、次回取り組む時に完了できることがメンドクサさを超える報酬になります。
 取り組むと報酬があると期待できるのでモチベーションが上がります。
 
 ポイントは完了させる方法が分かっていることで、どうすれば完了させられるのか、まるで見当がつかない問題では効果が薄いように思います。

 
 途中で投げ出さずに続ければ目標に到達できる(完了できる)確率は上がります。

Couch, whose work was also featured in the special issue, adds that we “should really be thinking of failure as part of a process of iterating toward success.”
その仕事が特集号にも掲載されたCouchは、「私たちは本当に成功に向かって繰り返すプロセスの一部として失敗を考えるべきである」と付け加えます。

 目標未達=失敗と捉えるのではなく、成功までの途中経過だと考えられれば続ける気持ちにもなります。また、失敗したくないから新しいことを始めないではなく、新規の取り組みへのハードルも下がりますね。

 

 現実には期日やコストの問題で完了まで続けられないこともたくさん経験します。
 続けられなくなったから、その経験は全てが無駄で廃棄するという考え方ではなく、次のチャンスにこの経験を活かすという長期の視点で見られれば、不遇にも一喜一憂せず 取り組んでいけます。
参照
How to Turn Failure into Success” Rachel Nuwer2019 Scientific American
The Hemingway effect: How failing to finish a task can have a positive effect on motivation” Yoshinori Oyama 他 2018 Thinking Skills and Creativity

性格診断の新しい流行りになる?ダークトライアドとライトトライアド

 Scientific Americanの記事「個性の対決:ライトトライアド対ダークトライアド ”The Light Triad vs. Dark Triad of Personality”」から。

 身近にいると厄介な人の性格として、サイコパスという言葉が一時期流行りましたよね。

 それと、クラッシャー上司やサークルクラッシャーと呼ばれる周囲の人間関係に悪影響を与える人物もいます。
 そんな、あまり関わり合いになりたくない人たちの性格の3つの側面としてナルシスト、サイコパス(良心や共感の欠如)、マキャベリアイズム(戦略的搾取と詐欺)があります。
この三つの性格の傾向を複合したものがダークトライアドになります。

 

 2014年ごろから盛んに研究成果が発表されていたようですが、今回ダークトライアドの対になる性格特性の尺度としてライトトライアドが公表されました。
https://scottbarrykaufman.com/lighttriadscale/

 単純に一つの軸の反対側の性格というわけではなく、一人の人間がライト側もダーク側もどちらも併せ持っていて、普通の人はライト側が少し高いくらいなようです。

 

The average balance score of the entire sample was 1.3, suggesting that the average person is tipped more toward the light relative to the light in their everyday patterns of thoughts, behaviors, and emotions.As you can see in this scatterplot, extreme malevolence is extremely rare in the general population:
 サンプル全体の平均バランススコアは1.3であり、平均的な人は明るい日常の思考、行動、および感情のパターンの中で、ライトトライアドの側に傾いていることを示唆しています。この散布図からわかるように、極端な悪意は一般の人々には非常にまれです。
※図は元記事でご覧ください。

 

 性格診断は人気がありますが、それにこだわり過ぎると相手のことを正しく見れなくなってしまう危険もあります。
 同じ人でも状況によっては(特に高いストレスに晒されていると)全く別の行動を選ぶことが普通です。相手の状況を理解せずに一方的に思い込みだけで判断すると、相手との関係を崩すことにもなります。

続きを読む →

「青梅」と「青海」を間違える?

 Scientific Americanの記事「Web検索が上手になる方法:Googleの科学者からの秘密”How to Be a Better Web Searcher: Secrets from Google Scientists”」から。

 東京都内やその近辺だと電車の経路が複数あり、馴染みのない所に行くには事前に調べておいた方が安心です。
 最寄り駅と降りる駅名だけで調べると乗り換えがメンドクサイ経路や、乗車時間は5分と変わらないのに運賃が高い経路が上位に表示されることもあります。自分にとって便利な経路がどれかは比較しないと分かりません。

 ところが検索で上位に出てきた答えを無条件に信じてしまう人もいます。これは乗り換え案内だけではなくGoogle などの検索エンジンでの検索も同じことです。

The deep problem here is that she blindly accepted the answer offered by the search engine as correct.
ここでの深刻な問題は、彼女が検索エンジンによって提供された答えを盲目的に正しいと認めたことです。

 

In many ways, search engines make our metacognitive skills come to the foreground. It is easy to do a search that plays into your confirmation bias—your tendency to think new information supports views you already hold.
 多くの点で、検索エンジンは私たちのメタ認知スキルを最前線に導きます。簡単にあなたがすでに持っている見解を裏付けるような新しい情報を考えたがるという、確証バイアスを試すことができます。

 人間にはどうしても自分が正しいと思っている情報を裏付ける証拠ばかり集めたがる傾向があります。
 これは健康問題などでは大きな被害が出ることもあるので注意が必要です。

 自分にとって過去に間違いがほとんど無かった検索結果をいちいち疑って検証するよりも、信じて従った方が頭を使わないので楽です。以前の投稿でもcognitive miser(認知的けちん坊)に触れましたが、その中にも”Google It and Forget It“がありました。

 

 記事から離れますが、年齢を問わず会話中でもすぐ検索する人がいます。曖昧なことを放置せず正確さを求めるのは悪い事ではないと思うのですが、細部の正確さよりも話し全体の意図や相手への共感や関心を示すほうがコミュニケーション上は良いのにと思うことがあります。
参照
How to Be a Better Web Searcher: Secrets from Google Scientists” Daniel M. Russell and Mario Callegaro 2019 Scientific American 
9 Signs You May Be a Cognitive Miser”Aditi Mehra 2019 Psychology Today
怠け者なのは、にんげんだもの

薬でやる気にすることの功罪

 Scientific Americanの記事「人工的なやる気の問題”The Problem with Artificial Willpower “」から。

 コーヒーを常飲しているので、カフェインがやる気というか眠気を取って集中しやすい状態にしてくれているような気はします。コーヒーに頼ってる面もあるので、記事のように薬物で人為的にやる気にさせることの倫理的な側面を説かれるとちょっと気まずくなります。

 自分で自分に使うなら良いじゃないかというのはもちろんそうですが、 薬物を使って本人にとって価値のないことを強制する(ブラック企業の環境でも”働くことができる状態”にしてしまう)ことは、雇用関係が支配-被支配の関係になっている環境では危険だと思います。

Might we end up leading deeply inauthentic lives, using pharmaceutically-induced willpower to waft through a life that otherwise means nothing to us?
薬物によって誘導された意志力を使って意味のない人生を歩んでいくことは、自分にとって本物ではない人生を送ることになるのでしょうか。

 

 また、スマートドラッグ(日本国内では認可されていない)と呼ばれるものに認知機能を良くする(頭が良くなる)作用はないようです。 ただし使った本人は効果があったと信じ込んでしまいます。プラシーボで良いのならラムネをかじってた方が健康ですね。

These sentiments are in line with research suggesting that if these drugs have any impact at all, it’s largely subjective.
これらの感情は、これらの薬物が何らかの影響を及ぼした場合、それは主観的なものであることを示唆する研究と一致しています。

 

 たぶんモチベーションを上げる薬とは、嫌いなことを無理やりできるようになる薬ではなく、嫌いなものが好きになる惚れ薬じゃないでしょうか。それを使いたいかどうかは別問題ですが。
参照
The Problem with Artificial Willpower” Hazem Zohny  2015 scientific american
Enhancing Motivation by Use of Prescription Stimulants: The Ethics of Motivation Enhancement” Torben Kjærsgaard 2015
Objective and subjective cognitive enhancing effects of mixed amphetamine salts in healthy people” Irena Ilieva 他2012

ダイバーシティが活きるチーム

 Scientific Americanの記事「チームの多様性を活かす方法”How to Capitalize on Your Team’s Diversity”」から。

 

 ダイバーシティには基本的に賛成派です。
 ただし、とにかく違う属性の人を集めれば良いというものでもありません。場合によっては効率が落ちてしまいます。

 

Having diverse group members can also lower cohesion and raise conflict due to interpersonal differences. And so, sometimes, diverse groups actually underperform homogeneous groups on creative tasks.
 多様なグループメンバーを持つことは、個人間の違いによって結束力の低下や対立を引き起こす可能性もあります。そのため、場合によっては多様性をもつグループが創造的なタスクに関しては均一的なグループの結果を下回ることがあります。

 

 多様性と言うと性別や国籍が分かりやすいですが政治的信条の右派左派の違いでも、話しが続けられる関係を維持していれば 良い効果が出ます。
 さらに橋渡し役として、どちらにも属していないが両方について理解のある「カルチャーブローカー」になる人がチームにいればより理想的なのだと思います。

 

Specifically, groups need members who are prepared to think carefully about how to best facilitate interactions among people who have different backgrounds and may look at the world differently. People with multicultural experience are best suited to this task: They can act as a bridge between their teammates who have experience with only one culture represented in the team.
 具体的には、グループには異なった背景から世界を違った視点で見ているような人たち
の間で、やり取りを促進する方法について慎重に考える準備ができているメンバーが必要です。
 多文化の経験を持つ人はこのタスクに最も適しています。彼らはチームの主流であるひとつの文化だけ経験しているチームメイト同士の橋渡し役として働くことができます。

 

Cultural outsiders instead relied on their position as a neutral third party to draw information and ideas out of their teammates about their cultures. So, during the team discussions, they often asked the other team members questions and proactively invited them to share relevant cultural knowledge.
 文化的な部外者は、彼らの文化についてチームメイトから情報と考えを引き出すために、中立な第三者としての立場をとりました。
 そのため、チームディスカッションでは、他のチームメンバーに質問をしたり、関連する文化的知識を共有するように積極的に要請したりしました。

 

 

 記事からは離れますが、 ダイバーシティは国籍(文化)だけではなく性別や年代などの自分と違う属性を経験できないものも含まれているはずです。
 また、カルチャーブローカーになる人がいなくとも、メンバー各自に相手の話しを聞く姿勢と話せる心理的安全があれば創造性は高まります。
 同じ文化の人だからと言って、自分にとっての常識や暗黙の了解が通じるわけではありません。力関係で一方的に自分の常識を押し付けることがチームの創造性を殺します。
参照
How to Capitalize on Your Team’s Diversity”Francesca Gino 2018 
Cultural Brokerage and Creative Performance in Multicultural Teams” Sujin Jang 2017 Organization Science
How “cultural brokers” improve team creativity”Sujin Jang 2018 INSEAD
The Wisdom of Crowds Requires the Political Left and Right to Work Together”Dana G. Smith 2019 Scientific American

反重力と言うとニセ科学っぽく聞こえるけれど

 Scientific Americanの記事”Sound by the Pound: Surprising Discovery Hints Sonic Waves Carry Mass
Some sounds might possess a tiny but measurable amount of negative gravitational mass (Jonathan O’Callaghan 3.11, 2019)を読んで。

 

 私も内容を人に説明できるほど理解できていませんが、音が伝わると物が軽くなるという理論が数学的には成り立つとPhysical Review Lettersに論文が掲載されました。(”Gravitational Mass Carried by Sound Waves“Angelo Esposito (Columbia University)他2019)

 

The mass of the phonons would be negative, meaning they would fall “up.”
音響量子(フォノン)の質量は負になり、それらが上に向かって落ちることを意味します。

 これからこの結論が正しかったのか検証を重ねられていくのだと思います。
 反重力なのかマイナスの質量なのか、日本語に訳そうとすればするほど不正確な表現になっていくので詳しくは原文を読んでください。

 

 ここまで来ると「進みすぎた科学は魔法と区別できない」 と理解力の不足を誤魔化したくなります(‘Д’)。
参照
Gravitational Mass Carried by Sound Waves
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.122.084501
Angelo Esposito (Columbia University)他2019
https://physics.aps.org/articles/v12/23

Mutual interactions of phonons, rotons, and gravity
Alberto Nicolis(Columbia University),Riccardo Penco(University of Pennsylvania)2018
https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.97.134516

音響量子(phonon)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%8E%E3%83%B3
場の量子論(Quantum Field Theory)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A0%B4%E3%81%AE%E9%87%8F%E5%AD%90%E8%AB%96

Sound by the Pound: Surprising Discovery Hints Sonic Waves Carry Mass
https://www.scientificamerican.com/article/sound-by-the-pound-surprising-discovery-hints-sonic-waves-carry-mass/

三人寄れば文殊の知恵もしくは衆知を集める

 Scientific Americanの記事”The Wisdom of Crowds Requires the Political Left and Right to Work Together

 組織内に多様性があるほうが良いという話は最近よく聞きます。
 多様性というと性別や国籍なんかが思いつきやすいですが、この記事によると政治的意見の違いでも同じように効果があるようです。

 

 面白いのは意見が違う人の対話の場として、ウィキペディアの記事の編集を実験に使っているところ。オンラインでできるので実験に参加してもらいやすくなり、記録を残しやすいので後で測定するのにも便利ですね。
 実験の結果、意見の違う人が議論を重ねるとやはりブラッシュアップされて良い記事になります。

 そして、ブラッシュアップのために対話するうえで大切なことは
We learned that if you have balanced polarization, that led to less toxic language, and less toxic language led to having longer debates.
 政治的に偏りすぎずにバランスを保っていれば毒舌は少なくなり、毒舌が少なくなれば対話は長く続けることができる。

 自説に固執する毒舌家や暴言を吐く人は建設的な対話ができない。
 という、当たり前のことのようですが、上司が人の意見を聞かない毒舌家だったりすると建設的な会議にならないですよね。

 議論を重ねてより良い案を作り出すために多様性はもちろん大事だと思います。同時に意見を言っても大丈夫だと確信できる心理的安全があることも重要です。

 

 改めて多様性について思った時に自分が受けてきた学校教育を振り返ると、生徒の画一化が目的だったんじゃないかと思わずにいられません( ゚Д゚)。

参照
https://www.scientificamerican.com/article/the-wisdom-of-crowds-requires-the-political-left-and-right-to-work-together/
https://awakener123.com/psychological-safety_1/
https://rework.withgoogle.com/guides/understanding-team-effectiveness/steps/identify-dynamics-of-effective-teams/

いくつになても学びは大切:脳のピークは意外な年齢

 Scientific American.comの記事(”When Does Intelligence Peak?Scott Barry Kaufman 2月28日, 2019)によると記憶力や判断力、計算能力といった認知機能はそれぞれピークになる年代がバラバラだと分かったそうです。
 Joshua Hartshorne(Harvard大学*1) と Laura Germine(Massachusetts General Hospital)が48537人を対象に標準的な IQ テストと記憶力テストを実施した結果です。

 年齢を重ねると若い時のほうが何でも上手くできていたような気がすることもありますが、実際は年を取った方が伸びていくこともあると考えると安心しますね。
 歴史的な出来事や政治的な思想といった一般的な情報を学び理解する能力は50歳前後、語彙力は60代後半(*2)でようやくピークです。

 そう考えると学び続けることが大事なのはもちろんですが、若い人の成長を長い目で見る楽観的な視点も必要だと思います。

 さらに、目的をもって毎日生活していると能力の低下を抑えることができるということなので最新学習歴の更新は大切ですね。

*1)現在は Boston College
*2)元記事の箱ひげ図とビジネスインサイダーの資料が合わないので気になる人は出典の論文で確認してください。(そこまでするのはメンドクサイ(^^;)

参考
ビジネスインサイダーにも同様の記事がありました。
https://www.businessinsider.com/smartest-age-for-everything-math-vocabulary-memory-2017-7#peak-ability-to-learn-and-understand-new-information-also-occurs-around-age-50-7
https://www.businessinsider.com/how-intelligence-changes-as-we-age-2015-3